大判例

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東京地方裁判所 昭和33年(ワ)297号 判決

先ず本件手形金の請求について判断するのに、証拠を綜合すると、被告法人においては手形発行の権限は代表役員たる統理並びに事務総長が有し、草場峻は被告法人の被用者たる財務部長として統理、事務総長の命を受けて金銭及び物品の出納、予算及び決算、財産の管理等の部務を掌理していたが、手形振出の権限がないのにかかわらず、かねて知合の訴外佐々木猛夫から金融の懇請を受けて、約束手形用紙にほしいままに自己が職務上保管していた被告法人事務総長秋岡保治の記名印と職印を押捺して被告法人事務総長秋岡保治振出名義の本件手形を作成し、これを富士電化産業株式会社代表者たる佐々木猛夫に交付したことを認めることができるから、本件手形は右草場の偽造にかかるものであることが明白である。よつて原告は、被告に対して手形上の権利を取得するに由なく、従つて本件手形に基き被告に対して手形金の支払を求める請求は失当である。

次に、原告の第二次的請求について判断するのに、証拠を綜合すると、原告は、富士電化産業株式会社代表者佐々木猛夫から訴外徳山宗治を通じて本件手形の割引の依頼を受けたのであるが、原告はこれより前昭和三十二年五月頃、右佐々木から本件手形と同じ形式の被告事務総長秋岡保治振出名義の約束手形の割引を依頼されたのであるが、その際該手形の支払場所であり被告の取引銀行である日本勧業銀行五反田支店に赴き調査したところ、印鑑等被告のものに間違いないということであつたし、その後該手形を含めてこの種の約束手形を二、三回割引いたが何れも満期日に手形金の支払を受け、その間事故はなかつたので、佐々木猛夫の説明する、本件手形は、被告が各神社にテレビを頒布するために、テレビ販売業を営む富士電化産業株式会社にテレビを注文したので、同会社において被告にテレビを納入し、その代金支払のために被告において真正に振り出された手形である旨の言を全く信用して、原告には当時割引に応ずるだけの手持金はなかつたので、とりあえず本件手形を担保として金二十万円を佐々木猛夫に貸付けて、本件手形の交付を受けたことを認めることができる。

そして、証拠によると、本件手形の裏書人であり且つ借受人である富士電化産業株式会社は倒産し、遡及義務ないしは貸付金返済義務に応ずる資力が全然ないことが認められるから、原告は草場の前記不法行為により、本件手形によつて担保された貸付金二十万円の回収ができなくなり、右相当額の損害を蒙つたものというべきである。原告は手形金に相当する損害を生じたと主張するが、前記認定のように原告が本件手形の交付を受けたのはいわゆる手形割引とは認められず、担保のために交付を受けたものと認められるから、貸付金たる右二十万円の範囲において損害が生じたものというべきで、これを超える金額についての損害の発生は認められない。

そこで草場峻の右不法行為が、その使用者である被告の「事業の執行に付き」なされたものであるかどうかについて判断するのに、証拠を綜合すると、被告は株式会社日本勧業銀行五反田支店に当座預金口座を有し、同銀行に手形及び小切手の振出権限を有する者として統理及び事務総長の名前と印鑑を届け出ていたこと、被告において約束手形、小切手を振り出す場合には統理又は事務総長の指示のもとに財務部において金額その他の要件を記載した上事務総長発行名義のものについては財務部において保管する事務総長の記名印と職印を押捺し、統理発行のものについては、統理の印鑑は財務部で保管しておらず秘書部で保管しているので、秘書部で押捺して振り出していたこと、もつとも約束手形については、取引銀行から融資を受けるに際して同銀行に振り出すことが年に一度位の割合であつたが、それ以外の目的のために振り出した場合は、草場の不正振出の場合を除いて、昭和三十一年六月以前において、某短波放送に支払うべき放送料金の支払のために同会社宛に振り出したことが一度あつたにとどまること、取引銀行との交渉はもつぱら財務部長たる草場が当つていたこと、本件手形は草場において前記保管中の事務総長の記名印と職印を押捺して作成したものであることを認めることができ、また証拠によると、被告法人は、「神宮を本宗として、神社神道を宣布し、祭祀を執行し、斯の道を信奉する者を教化育成し、神宮の奉賛及び大麻の頒布をし、神職を養成し、図書を発行頒布し、その他神社の興隆を図るため並びに神宮及び神社を包括するために必要な業務を行う」ことを目的として設立された宗教法人であること、が認められる。

さて、被用者の行為が使用者たる法人の事業の執行についてなされたものであるかどうかは、当該行為の外形から観察して(イ)当該法人の事業の範囲内の行為であること、(ロ)被用者の職務の範囲内の行為であることを要するものと考える。

(イ) ところで、宗教法人は、公益法人ではあるが、収益事業を行うことや借入又は保証をなすことは許されているのであるし、証拠によれば、被告法人は現に図書の出版事業を営んでいることが認められ、又前記認定のように取引銀行から借入をなすことも屡々行われたところであつて、かかる経済行為をなすことは前記目的の範囲内に当然包含されるものであると考えれるから、いやしくもかかる経済活動を行うことがその目的の範囲内に属する以上、その目的を達するための無色的行為として約束手形を振り出すこと自体は、被告法人の事業の範囲に入るものというべきである。

(ロ) 草場の前記認定のような本件手形の偽造行為は、草場自身に手形発行の権限はなくとも、事実上それを作成する事務を取り扱つていた者である以上、外形より観察すれば、被用者の職務の範囲においてなされたものとみることができる。

被告は、本件手形の偽造に関する一連の行為は、草場と佐々木との共謀による犯罪行為であるから、被告の「事業の執行に付き」なされた行為ではないと主張するが、右両名の行為が被告主張の如く共謀による犯罪行為として評価されるとしても、かかる不当な事業の執行といえども、行為の外形から見れば、事業の執行といえることは明らかであり、原告の損害発生と草場の手形偽造との間に因果関係の認められる以上、その間に佐々木の不法行為が介在したとしても、被告は使用者としての損害賠償の責任を免れることはできないこと勿論である。

以上認定したところによると、被告は民法第七百十五条により原告が被告の被用者たる草場の前記不法行為によつて蒙つた損害を、賠償する責任があるものといわざるを得ないから、被告は原告に対し金二十万円及びこれに対する支払済までの遅延損害金を支払うべき義務があるとして、原告の第二次的請求を右の限度において正当であると認容した。

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